食べる幸福論

心がざわつく時に試したい セロトニンを意識した簡単食事術

ストレスと私たちの心、そして食事

日々の仕事や人間関係の中で、私たちは様々なストレスにさらされています。心がざわついたり、漠然とした不安を感じたり、あるいは疲れやすかったり、気分の落ち込みを感じることもあるかもしれません。そんな時、つい食事をおろそかにしてしまったり、逆に無性に何かを食べたくなったりすることもあるかと思います。

実は、私たちの心と体、そして食事は密接に関係しています。特に、脳内で心の状態を安定させる働きを持つ神経伝達物質の一つである「セロトニン」は、食事がその生成に大きく影響することが分かっています。心がざわつくようなストレスを感じやすい時こそ、食事を少し意識してみることが、心身の状態を整える一助となるかもしれません。

セロトニンとは？心の安定と食事の関係

セロトニンは、「幸せホルモン」とも呼ばれることがありますが、これは感情や気分の調節、精神の安定に関わる重要な物質だからです。セロトニンが不足すると、気分の落ち込みや不安感、イライラなどが生じやすくなると考えられています。

セロトニンの約9割は、実は「腸」で作られています。残りの多くは脳内で作られます。腸と脳は「脳腸相関」と呼ばれるように、お互いに影響を及ぼし合っています。つまり、腸の状態を整えることは、脳でのセロトニン生成にも間接的に良い影響を与える可能性があるのです。

セロトニンを作るためには、材料となる栄養素を食事から摂り入れる必要があります。その主要な材料となるのが、必須アミノ酸の一つである「トリプトファン」です。トリプトファンは体内で作ることができないため、必ず食事から摂る必要があります。

さらに、トリプトファンからセロトニンを生成するためには、ビタミンB6、マグネシウム、炭水化物といった他の栄養素も必要になります。これらの栄養素が揃って初めて、体内で効率よくセロトニンが作られる仕組みになっています。また、腸でのセロトニン生成をサポートするためには、腸内環境を良好に保つことが大切であり、そのためには食物繊維や発酵食品を摂ることが推奨されています。

心がざわつく時に試したい食事のポイント

心がざわつくようなストレスを感じている時は、つい簡単に済ませてしまったり、偏った食事になりがちかもしれません。しかし、そんな時だからこそ、少しだけ食事の内容を意識してみませんか。完璧を目指す必要はありません。いつもの食事に、セロトニン生成をサポートする食材を少しプラスしたり、手軽な方法を取り入れたりするだけでも違いを感じられる可能性があります。

ここでは、心がざわつく時に意識したい食事のポイントをいくつかご紹介します。

1. トリプトファンを含む食材を摂る: 大豆製品（豆腐、納豆、味噌）、乳製品（牛乳、ヨーグルト、チーズ）、卵、魚類（特に青魚）、肉類、ナッツ類などにトリプトファンは豊富に含まれています。
2. セロトニン生成に必要な栄養素も一緒に摂る: ビタミンB6（魚、バナナ、ナッツ類）、マグネシウム（海藻類、ナッツ類、大豆製品）、炭水化物（ご飯、パン、麺類）を、トリプトファンを含む食材と一緒に摂るのがおすすめです。
3. 腸内環境を整える: 食物繊維（野菜、きのこ、海藻、豆類、玄米など）や発酵食品（ヨーグルト、味噌、納豆、漬物など）を意識的に摂り、腸の働きをサポートしましょう。
4. 「食べる時間」を大切にする: 早食いを避け、よく噛んで食べることも消化吸収を助け、心身を落ち着かせることに繋がります。可能であれば、温かいものをゆっくりといただく時間を持つと良いでしょう。

手軽にできる！セロトニンを意識した簡単レシピ

これらのポイントを踏まえて、忙しい合間にも手軽に作れる、心がざわつく時に試したい簡単なレシピを2つご紹介します。特別な材料や複雑な手順は不要です。

レシピ1：レンジで簡単！サバ缶とキャベツの重ね蒸し

サバ缶はトリプトファンとビタミンB6、さらに青魚ならではのDHA・EPAも含む優れた食材です。キャベツなどの野菜からは食物繊維やビタミンが摂れます。レンジで加熱するだけなので、火を使わず手軽に作れます。

• 材料（1人分）:
  • サバ水煮缶：1/2缶（固形量約50g）
  • キャベツ：1〜2枚（約50g）
  • きのこ類（お好みのもの、例：しめじ）：約30g
  • ポン酢しょうゆ：大さじ1〜2
  • 生姜（チューブ可）：少量
• 簡単な調理手順:
  1. キャベツはざく切り、きのこは石づきを取ってほぐすか切る。
  2. 耐熱容器にキャベツ、きのこ、サバ缶（汁ごとまたは汁を切って）を順に重ね入れる。
  3. 生姜を加え、ふんわりとラップをする。
  4. 電子レンジ（600W）で2〜3分、野菜がしんなりするまで加熱する。
  5. 器に盛り付け、ポン酢しょうゆをかけて完成。
• おおよその調理時間: 5分

レシピ2：混ぜるだけ！納豆とアボカドのユッケ風丼

納豆はトリプトファン、食物繊維、発酵食品、さらにビタミンKなども含む栄養満点の食材です。アボカドは良質な脂質やビタミンB6を含みます。ご飯（炭水化物）と一緒に混ぜるだけの簡単レシピです。

• 材料（1人分）:
  • 納豆：1パック
  • アボカド：1/4個
  • 卵黄：1個（省略可）
  • 白いりごま：小さじ1/2
  • ご飯：お茶碗1杯分
  • （A）添付のたれ：1袋
  • （A）ごま油：小さじ1/2
  • （A）醤油：小さじ1/4（お好みで調整）
• 簡単な調理手順:
  1. アボカドは1cm角に切る。
  2. ボウルに納豆、（A）の調味料を入れてよく混ぜる。アボカドと白いりごまも加えてさっくり混ぜる。
  3. ご飯をよそった丼に2を盛り付け、中央に卵黄をのせたら完成。
• おおよその調理時間: 5分

これらのレシピはあくまで一例です。心がざわつく時に食べたいと感じる、トリプトファンやセロトニン生成に必要な栄養素を含む食材を使った、ご自身にとって「手軽でおいしい」と思える食事を見つけることが大切です。

まとめ：食事を味方に、心穏やかな毎日へ

心がざわつく時、食事が完璧でなくても大丈夫です。まずは、トリプトファンを多く含む食材を意識してみる、少しでも野菜や発酵食品をプラスしてみる、といった小さな一歩から始めてみませんか。そして、食べる時は、可能であれば少し立ち止まり、温かい食事をゆっくりと味わってみてください。

食事は、体に必要な栄養を摂るだけでなく、心を落ち着かせ、満たす行為でもあります。日々の食事を少し意識するだけで、心身の状態が変化していくのを感じられるかもしれません。ご自身のペースで、食事を味方につけて、心穏やかな日々を目指しましょう。