よく噛む習慣で心穏やかに セロトニンを増やす簡単ひと工夫
忙しい日々、食事中の「食べ方」に意識を向けてみませんか
日々の仕事や人間関係のストレスで、心身ともに疲れを感じやすいと感じることはありませんか。疲れていると食事もついおろそかになりがちで、簡単に済ませてしまったり、早食いになったりすることもあるかもしれません。
食事内容が心身の状態に影響することはよく知られていますが、実は「どのように食べるか」という「食べ方」も、私たちの心の状態に深く関わっているのです。今回は、特別な食材や複雑な調理は必要なく、今日からすぐに始められる「食べ方」の工夫、特に「よく噛むこと」が心の安定に関わるセロトニン生成にどのように影響するのか、そしてどのように日々の食事に取り入れられるのかをご紹介します。
食事が心の幸福度を高める仕組みとセロトニン
私たちの心の状態と食事には密接な関係があります。特に、脳内で働く神経伝達物質である「セロトニン」は、「幸福ホルモン」とも呼ばれ、気分の安定や安らぎに大きく関わっています。セロトニンが不足すると、気分の落ち込みやイライラ、集中力の低下などを感じやすくなると言われています。
このセロトニンは、必須アミノ酸の一つである「トリプトファン」を材料として、主に脳内で合成されます。トリプトファンは体内で作ることができないため、食事から摂取する必要があります。さらに、セロトニン合成にはビタミンB6やマグネシウムなども補酵素として必要となります。
このように、セロトニン生成には適切な栄養素の摂取が不可欠ですが、実は食事中の「ある行為」も、セロトニンを含む脳の働きに良い影響を与えることが分かっています。それが「咀嚼(そしゃく)」、つまり「よく噛むこと」なのです。
「よく噛むこと」がセロトニン生成や心の安定に関わるメカニズム
なぜ「よく噛むこと」が心の安定やセロトニンに関わるのでしょうか。それにはいくつか理由があります。
- 脳の活性化: 咀嚼によって顎の筋肉が動き、その刺激が脳に伝わります。この刺激は、セロトニンを生成する脳の特定の部位(縫線核)を活性化させることが研究で示唆されています。よく噛むことは、脳全体、特に集中力や記憶力を司る領域の活性化にもつながると言われています。
- リズム運動: 咀嚼は一定のリズムで行われる運動です。ウォーキングや呼吸法のようなリズミカルな運動は、セロトニン神経を活性化させることが知られています。食事中の咀嚼も、脳に心地よいリズム刺激を与えることで、セロトニン分泌を促すと考えられています。
- 満腹感の向上: よく噛むことで食事に時間がかかり、脳が満腹感を感じやすくなります。これにより、食べ過ぎを防ぎ、食後の血糖値の急激な上昇を抑えることができます。血糖値の不安定さは気分の波につながることがあるため、安定させることは心の平穏にも繋がります。
- 消化吸収の促進: 食べ物を細かくすることで、消化酵素が働きやすくなり、栄養素の吸収効率が高まります。セロトニンの材料となるトリプトファンや、合成に必要なビタミン・ミネラルの吸収が促進されることも、間接的にセロトニン生成をサポートすると考えられます。
このように、よく噛むことは脳に直接働きかけたり、食事からの栄養摂取効率を高めたりすることで、心身の安定に寄与する可能性があるのです。
手軽にできる!「よく噛む」ための簡単な工夫
忙しい中でも「よく噛む」習慣を身につけるために、今日から試せる簡単な工夫をいくつかご紹介します。特別な食材や道具は必要ありません。
1. 意識的に噛む回数を増やしてみる
まずは一口あたり「〇回噛む」という目標を決めてみましょう。例えば、「一口あたり20回」など、無理のない回数から始めてみます。意識するだけで、自然と噛む回数が増えていきます。慣れてきたら少しずつ回数を増やしてみるのも良いでしょう。
2. 咀嚼を促す食材を取り入れる
自然と噛む回数が増えるような、少し歯ごたえのある食材を食事に取り入れてみましょう。
- 根菜類: ごぼう、れんこん、にんじんなど。きんぴらや煮物、炒め物に入れると自然と噛むことになります。
- きのこ類: しいたけ、しめじ、エリンギなど。ソテーや炒め物、スープの具にすると、独特の食感が咀嚼を促します。
- 海藻類: わかめ、ひじき、切り干し大根など(乾燥状態からの戻し)。煮物やサラダ、和え物に入れると、噛み応えがあります。
- ナッツ類・種実類: アーモンド、くるみ、ごまなど。サラダのトッピングや和え物に少量加えるだけでも食感が加わります。ただし、カロリーが高いので摂りすぎには注意が必要です。
- 繊維質の多い野菜: ブロッコリーの茎、セロリなど。調理法を工夫して取り入れてみましょう。
3. いつもの食事にプラスする簡単レシピ・アイデア
咀嚼を増やすための、簡単で手軽なメニューやいつもの食事へのちょい足しアイデアです。
アイデア1: きのこたっぷりレンジ蒸し
- 材料: 好きなきのこ(しめじ、エリンギなど)100g、ポン酢または醤油少量
- 作り方:
- きのこは石づきを取り、食べやすくほぐすか切る。
- 耐熱皿に入れ、ラップをふんわりかける。
- 電子レンジ(600W)で2〜3分加熱する。
- ポン酢や醤油を少量かけていただく。
- ポイント: きのこの歯ごたえで自然と噛む回数が増えます。忙しい日の副菜にぴったりです。
アイデア2: 切り干し大根とツナの和え物
- 材料: 切り干し大根 10g、ツナ缶(油漬けまたは水煮)1缶、マヨネーズまたは醤油・ごま油少量
- 作り方:
- 切り干し大根は袋の表示通りに戻し、水気をしっかり絞る。
- ツナ缶の油または水気を切る。
- ボウルに切り干し大根、ツナ、調味料を入れて和える。
- ポイント: 切り干し大根のしっかりとした食感が特徴です。常備しておくと便利です。
アイデア3: ナッツとドライフルーツのちょい足し
- ヨーグルトやサラダに無塩・無油のナッツやドライフルーツを少量加える。
- おにぎりの具材に刻んだナッツやごまを混ぜ込む。
- スープや味噌汁の仕上げにごまや刻みネギを加える。
これらの食材やアイデアを取り入れることで、自然と噛む機会を増やし、咀嚼によるメリットを享受しやすくなります。
食べる時間と向き合う「マインドフルイーティング」のヒント
「よく噛む」ことと合わせて意識したいのが、食事に集中することです。スマートフォンを見ながらや、他の作業をしながらの「ながら食べ」は、無意識に早食いになりやすく、咀嚼回数も減ってしまいがちです。
- 五感を使って食事を味わう: 料理の色、香り、口に入れたときの音、舌触り、そして味を意識的に感じてみましょう。
- 一口ごとに箸を置く: これだけで、次の mouthful までに間が生まれ、自然とゆっくり噛むことにつながります。
- 食事の時間を確保する: 忙しい中でも、せめて15分〜20分程度は食事のためだけの時間を確保できると理想的です。
まとめ: 食べ方を変えて、心穏やかな毎日へ
日々の忙しさの中で、食事は単なる栄養補給になりがちかもしれません。しかし、「よく噛む」という簡単な習慣を意識するだけで、心の安定に関わるセロトニン生成を助け、脳を活性化させ、満腹感を得やすくするなど、心身に嬉しい変化をもたらす可能性があります。
今回ご紹介したような、少し歯ごたえのある食材を取り入れたり、一口ごとに意識して噛む回数を増やしたりする工夫は、特別な準備や時間をかけずに始められます。ぜひ、今日から一口でも多く噛むことを意識して、心穏やかな毎日へと繋げてみてください。食事は、単なる栄養摂取だけでなく、私たちの心に安らぎと幸福感をもたらす大切な時間です。